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「あんな女の一人や二人、殺されたって、何でそんなにさわぐんです」
「少しは言葉をつつしみたまえ」
「これは失礼……なるほど、あなたにとっては飯の種でしたなあ。いや、私がそう申しあげたのは、最近、あの女の素行《そこう》に、眼《め》にあまるものがあったからです」
「それと、君と何の関係があるんだ」
「マネ弗悌‘として、私もだまって見ているわけには行きませんやね。ああして生活が荒《あ》れ出しちゃあ、芸だって、荒《すさ》んでくるのは当然ですよ」
「すると、恋愛《れんあい》関係――のことかね」
「もちろんそうです。松前君だって、あの金田という哕炇证坤盲皮ⅳ浃筏い猡螭扦工琛I奖揪趣稀ⅳ猡沥恧螭いΔ思啊钉琛筏肖氦扦工汀
「でも、山本君も、松前君も、その点では、口をそろえて否定していたよ。芸術のための研究。プラトニック?ラヴだといっていたんだよ」
日高晋は、唇《くちびる》の端《はし》を歪《ゆが》めて笑った。
「警部さん。あなたは、あの山本君という人間を知らないから、そんなことをおっしゃるんですよ。あんな顔で、あれは稀代《きたい》の色……いや失礼、ドンファンというものは、顔が女に好かれるように出来てなくっちゃ、こいつは話になりませんや」
「人の中傷は聞きたくないね。それとも、君が、彼を犯人だと指摘するような、確証を握《にぎ》っていれば、これは別だが……」
「足どりを見たって分かるじゃありませんか。四時に、哕炇证稀ⅳⅳ闻蛐滤揆kでおろしたといいましたね。それからどこへ行ったんです。あの男のところしかないじゃありませんか」
警部の顔には、かすかな動揺《どうよう》の色が、あらわれたらしかった。相手は痙攣《けいれん》的に笑って、
「それごらんなさい。いいですか、警部さん、あの女は、自家用車を仱辘蓼铯筏皮い肷矸证扦工肌¥铯欷铯欷韦瑜Δ恕ⅴ珐‘タクのメ咯‘に、ビクビクしていなくてもすむんですぜ……それなのに、なぜ自動車をとばさずに、ラッシュで混雑している電車なんかに仱盲菩肖盲郡螭扦埂
自分の言葉に陶酔《とうすい》しているように、彼は外国|煙草《たばこ》の煙《けむり》を吐《は》き出しながら、
「その理由は知れているじゃありませんか。あの女は、自分の行き先を秘密にしたかったんですよ。あの哕炇证稀⒅魅摔酥覍gな男です。愚直《ぐちよく》ですが、一本気な、日本犬みたいな男です。出来たなら、あの女も彼をくびにしたかったでしょう。しかし、主人の方が目をかけているために、そこまで無理も出来なかった。といって、自分の行き先が知れても困る。それで電車で道行と相成ったわけですな」
相手に決して好意を持っていなかった、高島警部も、この言葉に含《ふく》まれる、一面の真理は認めずにはおられなかった。
「プラトニック?ラヴ――いい言葉ですな。詩的にひびくじゃありませんか。しかし、日本人というやつは、とにかく看板にだまされ易《やす》くってね。そんな正々堂々たる関係なら、何の恐《おそ》れるところがあります。堂々と玄関《げんかん》に自動車を横づけにしたらよろしい。警笛《けいてき》を伴奏《ばんそう》にして、隣《となり》近所にふれまわしたらよろしいですな」
傍若無人《ぼうじやくぶじん》な言葉はつづいた。
「あの女は、何かを恐れているんですよ。あの哕炇证恕⒆苑证涡肖趣蛑椁欷毪长趣蚩证欷皮い毪螭扦工琛:韦韦郡幛扦埂t明《けんめい》なる警部殿にはいわずと自らおわかりでしょう。だまされちゃいけません。あの女が上海《シヤンハイ》で、どうして生きていたか、あなたが知らないはずがありますか」
「ダンサ汀
「とんでもない。そりゃ表向きの看板だけ。あの当時の上海で、あの女ぐらいのくらしをするには、体を売るか、体をはるか、どちらかしなけりゃ、やっていけっこありませんって……麻薬《まやく》の売買で、あの女を取り眨伽郡韦稀ⅳ郡筏摔ⅳ胜郡坤盲郡扦筏绀Δ
「それが本当だったというのか」
「本当ですとも、ただその証拠《しようこ》がなかっただけ……何ならお見せしましょうか」
「領警時代の僕《ぼく》なら、喜んで拝見しただろうがね」
「警部さん……あなたは知らない。あなたはそれに気がつかなかった……だが、私は知っていたんです。しかも彼女は、天下に名をとどろかした大女優とおなり撸Г肖筏俊I鷼⒂電Z《せいさつよだつ》の権を与《あた》えられたマネ弗悌‘、私が彼女のそばを離《はな》れられなかったわけがお分かりでしょうね」
「分かるような気がするよ。ちょっと係がちがうがね」
「だが、今となっては、夢《ゆめ》去りぬ――です。日高晋もついに杢阿弥《もくあみ》になり下がりました。以上全巻の終わりですな」
「君の立場には同情するよ」
「そこで私の申しあげたいのは、この殺人によって、私の得るところは、少しもないということですな。上杉弥生あっての日高晋だから、彼女を殺す動機など、少しもないということです。まして見知らぬ男など……」
やや間をおいて、彼はするどく言い切った。
「アリバイを崩《くず》そうとなすっても無駄《むだ》ですよ。たとえこの殺人が、枺─切肖铯欷郡摔护琛岷¥切肖铯欷郡摔护琛⑺饯摔辖~対のアリバイがあるんですよ」
「どうぞご自由におひきとり下さい」
警部はつめたく挨拶《あいさつ》した。
彼が部屋《へや》を出て行くと同時に、一人の警官が、応接室へ入って来た。
「高島警部殿」
「何だね」
「お留守中に、この家へ、この方が弔問《ちようもん》においでになりました。そして、この名刺《めいし》をお帰りになったら、わたしてくれと申されました。自分はちょっと署の方へ、連絡《れんらく》に行っておりましたので、遅《おそ》くなりましたが……」
「誰《だれ》だろう」
ひくくつぶやきながら、警部はその名刺を受けとったが、見る見るうちに、その顔には喜色が浮《う》かび上がって来た。
その上の名は、
白川武彦
そしてその右肩《かた》に、万年筆で、
「蒼風閣《そうふうかく》に滞在《たいざい》しております」
としるされていた。
7
蒼風閣《そうふうかく》は、魚見ケ崎《うおみがさき》の絶景にあった。車がその前にとまった時、高島警部はおやっと思った。十五|坪《つぼ》か二十坪ぐらいの、平家としか思えなかったのである。
表の戸はしまっていた。ベルをおして、来意を告げると、警部はすぐに、玄関《げんかん》から下へ案内された。
懸崖《けんがい》作りというのであろう、五階建ての建物が、崖《がけ》の斜面《しやめん》に沿って作られ、最上階の玄関から、下へ降りて行くのである。
「こちらでございます」
お手伝いは、霞山《かざん》の間と名札《なふだ》の出ている部屋《へや》の摇钉栅工蕖筏蜷_いた。
「高島君だね。入りたまえ」
十二|畳《じよう》の座敷《ざしき》の窓際に、白川武彦は坐《すわ》っていた。上海《シヤンハイ》総領事当時から、身だしなみには病的なくらいに気を使っていた彼のこと、こうして温泉に滞在《たいざい》しているときでも、端然《たんぜん》と大島の着物を着くずれもなく身につけて、静かに正座していたのだった。
「しばらくでございました。その後おかわりもございませんか」
自然と、警部は畳《たたみ》に頭をこすりつけていた。
「こちらこそ。でも、高島君、もうそんなに固くならなくてもいいじゃないか。僕《ぼく》は役人の足を洗った。野《や》にかえって、いまは一人の私人なんだよ」
白川武彦は笑っていた。広い、角ばった額《ひたい》も、男性的な太い水平な眉《まゆ》も、固く結んだ唇《くちびる》も、高島警部にはなつかしかった。
一中、一高、枺螭取⑼饨还佶畅‘スの本道を歩んで外交官試験に合格、若くして霞ケ関《かすみがせき》の偉材《いざい》といわれた白川武彦は、いまでも四十をいくつも越《こ》えてはいなかった。ロンドン大使館を振《ふ》り出しに、英米仏の三大使館勤務を次々に経歴し、中国に帰って、廈門《アモイ》の領事をつとめ、三十三|歳《さい》という若さで、風雲急を告げた上海《シヤンハイ》総領事の地位に就《つ》いたときには、誰《だれ》しも思わず眼《め》を見はって、この麒麟児《きりんじ》の前途《ぜんと》に注目したのである。
昭和十三年から二年間、緊迫感《きんぱくかん》を加えた国際都市上海で、彼は外に英米仏ソ独伊の大国を相手に廻《まわ》し、内には軍部の強圧に屈《くつ》することなく、堂々たる外交|手腕《しゆわん》を発摚Г筏俊I虾9げ烤珠Lロバ龋骏廿螗扩‘ソンは、彼を「個人的日本|駐華《ちゆうか》大使」とよんだくらいに、彼の手腕と力量に絶祝钉激膜丹蟆筏蛳А钉筏筏蓼胜盲郡韦扦ⅳ搿
これが、中国の内治外交の指導権を、一手に掌握《しようあく》しようと